フリーランスが知るべき源泉徴収について解説!源泉徴収の計算、必要な報酬、請求書の書き方も紹介!源泉徴収しないとどうなる?
企業や団体から報酬を受け取ると、所得税が発生します。所得税は報酬を受け取った人に賦課(ふか)されるものです。
しかしながら、その税金は受け取った人でなく支払者により天引きされ、国税として国に納付されます。
フリーランスの方の立場は報酬を受け取る側ですが、支払う側の手続や税金の納付も含めた源泉徴収制度及び周辺の税制全般について幅広く解説します。
自身には直接関係の無い部分も含め、源泉徴収に関する全体的な知識を身に着けることで、税制に関する理解度がさらに深まるでしょう。
源泉徴収制度の目的
所得税というものは国に納付すべき税、すなわち国税です。その仕組みは所得税法により定められるものですが「申告納税制度」を基本としています。
所得のある人が自ら申告・納付するものであり、特定の所得に関しては支払者側がこれを徴収し代わりに納税します。これが「源泉徴収制度」です。
徴収された所得税は「源泉所得税」と呼ばれることもあります。源泉徴収された税金は手続きとしてはまだ完結していません。
企業が従業員に対して支払う給与に関しては年末調整で、また報酬・謝礼などの場合は確定申告において、最終的な精算手続が行われます。
従ってフリーランスの方の場合は月々の報酬において源泉徴収された後、最後に確定申告により差額を精算してようやく完結です。
なお、利子所得の場合は源泉分離課税とされていて、源泉徴収されればそこで納税義務は完了となります。
いずれにせよ、この制度自体が目的としているのは定期的な納税を通じて徴税事務の簡素化・効率化を図るということです。
復興特別所得税
源泉徴収の対象となるのは所得税だけではありません。「復興特別所得税」も所得税と共に徴収されます。
ところで復興特別所得税とは東日本大震災からの復興を図る目的で2011年に制定された法律です。所得税との合計額を源泉徴収され、国に納付されます。
この税は2013年1月1日から2037年12月31日までの間に発生する所得に対して課税されるもので、いわゆる、時限立法です。
それぞれの算定方法は後ほど解説します。
源泉徴収義務者
所得税法では「源泉徴収義務者」を定めています。所得税や復興特別所得税を徴収し、納付する義務のある対象者です。
例えば従業員に対する給与、あるいは弁護士、税理士、公認会計士などへの報酬を支払う企業がそれに該当します。
企業以外では学校、官公庁、社団法人、財団法人などの団体も徴収義務者です。
更に源泉徴収が義務付けられている種類の報酬であれば個人が支払っても源泉徴収義務者となる場合があります。
逆に常時2名以下の家事使用人に支払う給与などは源泉徴収の対象外ですし、個人が確定申告のために税理士に報酬を支払う場合も同様です。
源泉徴収制度の概要
ここから源泉徴収制度全体の骨組みについて説明します。
制度に対する理解を深めるため、報酬を受け取る側だけでなく支払う側が守るべき規則も含まれていると考えて下さい。
関連法規
個人の所得に関することは「所得税法」の定めに拠ります。また納税義務者については「国税通則法」が根拠法です。
制度の背景
源泉徴収制度には歴史的な変遷があります。1940年にドイツから学んだ制度ですが、当時は戦費調達が目的でした。
その7年後には支払者が控除項目を織り込んで税額計算まで行う「年末調整」が手続きとして採用されています。
その計算結果に対して税務署で再計算を行うことが定着していたのですが、税務署側の要員不足の問題もあり永くは続きませんでした。
1951年に至って支払者側が行う形となり、現在の様式に至っています。
源泉徴収も申告も事務作業の軽減を図るという方向性に対しては多くの関係者の利害が一致するところです。
その意味で国税庁が推進している電子申告のシステムは今後大きく普及・拡大するものと考えられます。
納税地
源泉徴収された所得税を納める納税地についても定めがあります。報酬支払事務を取り扱う支払者の事業所の所轄税務署が納税地となります。
報酬を受け取ったフリーランスの方の居住地を管轄する税務署ではありません。
徴収
源泉徴収は報酬の額から所得税と復興特別所得税を算出しこれを天引きすることにより行われるので、受け取るのは税金控除後の金額です。
因みに報酬を支払う側の企業・団体はこの税金を「預かり金」として会計処理します。
税金を預かった企業はこれを法定納期限内に納付しなければなりません。
納付方法
源泉徴収された所得税を税務署に納付するのは報酬を支払った支払者(事業者)です。
納付に際しては所得税徴収高計算書(納付書に相当するもの)を添えなければなりません。
所轄税務署若しくは最寄りの金融機関にて納付します。期限に遅れると延滞税や加算税を負担しなければならない場合があります。
なお、納付はe-Taxと呼ばれる「国税電子申告・納税システム」を用いてインターネット経由で行うこともできます。
源泉税の納期と特例
源泉徴収した所得税や復興特別所得税は原則として徴収した翌月の10日までに所轄税務署に納付しなければなりません。
しかしながら中小零細企業にとって毎月の納付は相応の事務負担を強いられることになります。
そこで制度は給与の支給対象人数が常時10名未満の事業所に対して納期の特例を認めています。
事業所の所轄税務署長宛てに「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」を提出すれば「年2回の納付で良い」とされています。
1月から6月までの分を7月10日に、7月から12月までの分を1月20日に納めればよいのです。
税務関係手続期限
源泉徴収された所得税の納期については説明した通りですが、税務関連の手続期限についてもこの機会に紹介しておきましょう。
報酬を受け取る立場のフリーランスの方にとって直接の関係はありませんが、確定申告に至る税務手続を知識として捉えておいて下さい。
年末調整
1年を通じて勤務する給与所得者のための制度です。通常月は国税庁の定める源泉徴収税額表の料率に従って給与から税金が源泉されています。
期中の給与額の変動、扶養親族の増減、各種控除などを織り込んだ正確な所得税計算を年末に行い、源泉税との差額が精算される仕組みです。
事業主が算定し、毎年12月の給与で精算されるのが普通ですが、翌年1月以降にズレ込んで還付請求により精算されることもあります。
源泉税納付
先述の通り、源泉された所得税は翌月10日納付が原則です。納期の特例手続が認められると、1月20日、7月10日が半期ごとの納期となります。
法定調書
源泉徴収票、報酬・料金・契約金・不動産使用料等の支払調書、法定調書合計表などの一連の法定調書は1月末までに所轄税務署に提出します。
報酬を受け取った方の分もその居住地を管轄する税務署宛てに報酬の支払者が提出しなければなりません。
給与支払報告書も法定調書の一部ですが提出先は支払を受けた方の市区町村宛てとなります。
住民税と国民健康保険料算定のための提出で内容は源泉徴収票と同じものです。
確定申告
1年間の所得を申告し納税を正しく行うことが確定申告の目的なので、1月から12月までの1年間に所得のあった方全てが対象となります。
但しサラリーマンや公務員の場合は年末調整によって事業主が代行してくれますから、普通は対象外となります。
フリーランスの方はもちろん、自営業者、個人事業主、不動産収入のある方、株の取引により所得を得た方は当然対象です。
サラリーマンであっても医療費控除あるいは住宅取得控除を受けようとする方、複数の事業主から所得を得ている方、も確定申告をする必要があります。
会社の給与以外に20万円以上の副収入がある方も対象です。
フリーランスの方の場合、確定申告において所得を申告すると共に、医療費控除や必要経費などの申告も必ず行うようにして下さい。
e-Taxを通じて申告すれば医療費や経費の明細も入力できるので、領収書の添付も省略できて大変便利です。
因みにe-Taxには「カードリーダー方式」と「ID・パスワード方式」とがあります。
後者は税務署を1度訪問してIDとパスワードを取得しておけば利用開始できるので、おススメの方法です。
申告期限は通常ですと2月15日から3月15日(休日に当たる場合は翌月曜日)の間です。
ただし例外的に期限を延長できることもあり、例えば2023年では新型コロナウイルスの影響で期限内の納付が出来ない場合は、「災害による申告、納付等の期限延長申請書」を申請し、承認されることで期限が延長されました。
源泉徴収の対象となる所得
源泉徴収の対象となる所得には種類があり、その種類によって源泉税額計算にも影響が生じます。
まずは種類毎の対象所得を確認しておきましょう。
給与等
給与、賞与、パート・アルバイト等の給与です。給与には社宅の無償供与などの経済的利益が含まれます。
退職手当等
退職手当、解雇予告手当、役員昇格に伴う使用人分の退職金が対象です。
配当等
企業により支払われる利益配当が対象となります。
報酬・料金等
原稿料・デザイン料・講演料、弁護士・税理士・公認会計士・社会保険労務士などの報酬、同じく司法書士・土地家屋調査士等の報酬が含まれます。
外交員・集金人・コンパニオン等の報酬や役務提供契約に伴う一時払いの契約金なども対象です。
フリーランスの方の場合の所得は「報酬・料金等」のグループに該当するものと思われます。
源泉税の税額計算
源泉徴収される税額はどのように計算されているのでしょうか。対象となる所得の種類によって計算方法も違いますので個別に解説します。
消費税の扱い
最初に確認すべきは消費税の扱いについてです。これに関しては所得税法204、205条及び復興財源確保法8条以降において規定されています。
所得税と復興特別所得税は共に源泉徴収の対象ですが、その時の対象金額が問題となります。
結論としては税込み、税抜きいずれも対応可能です。報酬を受け取る側、即ちフリーランスの方が支払者に送付する請求書の書き方次第となります。
消費税が区分表示されていない金額であれば、その税込み金額に源泉税率を乗じて算定されます。
一方報酬額と所得税額とが区分表示されていれば、その報酬額部分のみに対応した源泉税が算定されることとなるわけです。
これは請求書作成に際して特に留意すべき項目の一つとなります。
計算方法
給与・賞与・退職手当等に対しては国税庁が毎年発行する「源泉徴収税額表」に当てはめて速算されます。
源泉徴収税額表の見方には注意が必要です。
「扶養控除等申告書」の提出の有無により適用が「甲欄」・「乙欄」に分かれており、提出ありの場合の「甲欄」の税額の方が安くなっています。
なお、社会保険料等控除後の給与の金額が88,000円以下の場合は源泉されません。
源泉徴収税率は全て復興特別所得税を含んだ率で説明します。利益配当に対しては20.42%です。
報酬・料金等のグループでは社会保険料等の控除はされないので報酬額に対する税率となりますが基本は10.21%です。
但し講演料や契約金などで1回の支払いが100万円を超える場合、超えた部分に対しては20.42%となります。
又、外交員に対しては月額12万円、コンパニオンに対しては日額5千円の基礎控除があります。
因みに復興特別所得税の税率は基準所得税額の2.1%です。従って源泉徴収税率10.21%の内訳は所得税分10%、復興特別所得税分0.21%となります。
源泉徴収票や支払調書を受け取りましたら、確認してみて下さい。
請求書の作り方
フリーランスの方の場合、報酬を受け取るために自ら請求書を作成する必要があります。その請求書に必ず明記しておくべき項目に絞って解説します。
商品・サービスの内容
何の対価を請求するかは双方の会計仕訳のために重要です。わかりやすく商品名や提供したサービスの内容を記述しておきます。
対象月
何月分として提供したものかは明記すべき項目です。特に決算期においては未収・未払処理の根拠となります。
支払期日
これも双方の資金繰りにおいての重要項目です。
仕入代金の支払い、信用取引の決済時期、公共料金の口座引き落としなどのタイミングを考慮すると月末日を指定するのが妥当でしょう。
消費税
先ほど税額計算でも説明した通り、消費税を区分表示することは大変重要です。
報酬を受け取る側からすると、そうすることで源泉徴収される税額を抑制することができます。
振込先口座
当たり前ですね。これを忘れると入金されません。
いずれにせよ、請求書を作成・送付する前に必ず支払者側と確認を取っておきましょう。
源泉徴収しないとどうなる?
給与や報酬に対して源泉徴収するということは所得税法で定められた手続きです。
この手続きは支払者側に求められるものですから、受け取る側のフリーランスの方が「しない」ということは行為としてあり得ません。
支払者側が「しない」場合は、加算税や延滞税といったペナルティを支払者側が課されることになります。
片や受け取る側は必ず確定申告をするので、「しない」というより「されなかった」場合には源泉徴収税額ゼロ円と記入して申告すれば良いのです。
フリーランスの方にとっては「確定申告」が最も重要な手続となりますので是非念頭に置いて下さい。
マイナンバー制度との関係
2016年から「社会保障・税番号制度」通称「マイナンバー制度」の運用が開始されました。
同年1月1日以降の法定調書には報酬等を受け取る方のマイナンバー、法人組織であれば法人番号を記載することが義務付けられています。
フリーランスの方も報酬を受け取る以上、支払者から「番号確認」と「身元確認」を求められますので対応が必要です。
具体的には「マイナンバー通知カード」と「運転免許証」あるいは「パスポート」などの顔写真付きの身分証明書をセットで送付することとなります。
写真付きの証明書が無い場合は健康保険証など2種類の書類が必要です。
これらの証明書類は原本でなく、写しを使用することになります。
余談とまとめ
納税の義務–憲法30条「国民は、法律の定めるところにより、納税の義務を負ふ。」
出典元:日本国憲法 昭和21年11月3日公布
憲法30条に定められた「納税の義務」は「教育の義務」、「勤労の義務」に並ぶ国民の3大義務の1つです。
この義務はその前身の大日本帝国憲法(明治憲法)においても定められていました。
教育と勤労は義務であると同時に権利でもあると定められているのに対し、納税は義務としてだけ書かれている点が特徴的です。
源泉徴収制度も税制の一部を構成しているものですから、全体像を正しく把握しておく必要があります。
特にこの制度は「給与や報酬を受け取る者が自分で税額計算や納付手続きを遂行しない」がために「納税意識が希薄になる」と指摘する専門家もいます。
フリーランスの立場であると同時に日本国民の1人でもあるわけですから、納税意識はしっかり持ちたいものですね。