税負担を少なくする配偶者控除

税務署


日本の夫婦にとって大きな支えとなっていた「配偶者控除」

配偶者を扶養に入れれば税金の控除ができるということで、夫婦の働き方や考え方に大きな影響を及ぼした制度です。

この「配偶者控除」が2017年の税制改正により改正され、大きな話題を集めました。

一体なぜ、配偶者控除は改正されることになったのでしょうか。


改正によって配偶者控除はどう変化したのか

報告書作成


今回の記事では2018年からスタートした新しい「配偶者控除」がどんなものなのかという点に注目

以前までの配偶者控除と、2017年に改正された新たな配偶者控除、それぞれをチェックしましょう。

どう変化したのかといった部分に注目です。

また、フリーランスの方にはこの改正がどう影響するのかという点や、専業主婦を妻に持つ場合に損をしない収入範囲についても解説いたします。


以前の配偶者控除

ビジネスマンの手の働き


最初に、2017年までの配偶者控除を簡単に解説していきます。

以前の制度であるため、深く理解する必要はありません。


配偶者控除の条件

以下の条件を満たした配偶者が、配偶者控除の対象となっていました。

  • 税額の負担が減る「配偶者控除」には当然ながら対象となるための条件がいくつか設定されています。
  • 納税者(世帯主)と生計を一にしている
  • 民法の規定に当てはまる配偶者である(内縁関係や同棲・事実婚などは含まれない)
  • 配偶者の年間の合計所得金額が38万円以下(給与収入のみの場合は103万円以下)
  • 青色申告者の事業専従者として給与の支払を受けていないこと
  • 白色申告者の事業専従者ではない

つまり、共働きの夫婦の配偶者がパートなどで得た給与による収入を103万円以下に抑えることで、税金を安くすることができていました。


俗に言う「103万円の壁」

これが俗に言う「103万円の壁」と呼ばれているものです。

仮に103万円を超えた場合は「配偶者特別控除」となり、141万円まで収入額に応じて段階的に控除額が減少していく…という措置が取られていました。

配偶者控除が改正されるきっかけとなったのは、この「103万円の壁」が要因だといわれています。

その点に関しては、後ほど詳しく解説いたします。


改正された配偶者控除

チャートとグラフが出力されている近代コンピュータ


2018年より配偶者控除が改正されることになりました。

この改正における重要・頭に入れておきたいポイントが3つあります。

  • 配偶者の年収の上限の変更
  • 納税者の所得が多いと控除不可
  • 納税者本人の所得によって控除額が変化していく

それぞれを簡単にチェックしておきましょう。


配偶者の年収の上限の変更

以前の制度では「103万円の壁」があったと紹介した通り、給与収入において「103万円」を超えると控除額が減少してしまっていました。

新しい配偶者控除ではその上限額が「150万円」まで引き上げられたのです。

厳密に言えば、配偶者特別控除。

配偶者の給与収入による年収が103~150万円までの場合、納税者である世帯主は38万円の所得控除を「配偶者特別控除」として受けられるようになりました。

以前まではこの「38万円の控除」を受けられるのは「103万円まで」だったため、かなり数字が引き上げられたといっていいでしょう。

そして配偶者の給与収入による年収が仮に150万円を超え、約201万円までの場合も配偶者特別控除として年収に応じて段階的に控除額が減少していきます。

もしも配偶者がフリーランスとして働いており、配偶者の所得金額が38万円以下の場合は控除を受けることができます。


納税者の所得が多いと控除不可

電話をする男性


従来の配偶者控除においては、納税者の所得はいくら多くても適用対象となっていました。

条件だったのはあくまで「配偶者の所得額」であり「納税者の所得額」は多くても関係なかったのです。

しかし、改正された配偶者控除では納税者(世帯主)の合計所得が給与収入で、仮に1,220万円を超えていた場合は、配偶者控除の適用を受けられないようになりました。

そして、フリーランスなどで活動し給与ではなく所得の場合は1,000万円を超えた場合、同様に控除を受けられません。

特にフリーランスの仕事で生計を立てている場合は、収入額を上手く調整する必要が生じてくるでしょう。


納税者本人の所得によって控除額が変化していく

先ほど触れた通り、従来の配偶者控除においては納税者の所得額の多さは考慮に入れられていませんでした。

改正された配偶者控除では、所得が1,000万、給与収入が1,220万円をそれぞれ超えた場合に控除の適用が受けられないということを解説しました。

そして仮にこの上限額に達さない範囲に収まっていたとしても、控除額が段階ごとに変化するようになりました。


合計所得金額と控除額

出金伝票


では、一体所得金額が何円以内であれば38万円の配偶者控除の対象に含まれるのでしょうか。

ここから所得金額ごとの控除額の変化を解説いたしますが、前提条件として「配偶者の所得収入が38万円以下、給与収入が150万円以下」であるということを念頭においてご覧ください。

もし仮に所得金額が900万円(給与収入1,120万円)以下の場合、38万円の配偶者控除および配偶者特別控除を受けることが可能になります。

900万円以上950万円(給与収入1120万円超〜1170万円)以下の場合は、控除額が26万円となります。

そして、所得金額が950万円以上1,000万円(1,170万円超〜1,220万円)以下の場合、控除額は16万円

仮に配偶者が配偶者控除・配偶者特別控除の条件を満たしていたとしても、収入に応じて最大で22万円の差が生まれるようになりました。


妻が専業主婦の場合に注意すべきポイント

自分たちのオフィスで働く男性


さて、もし妻が専業主婦の場合に納税者(世帯主)は注意しなければならないポイントがあります。

それは、まさに先ほどまで触れていた「自分の所得金額(給与収入額)」です。

給与収入は会社に依存する部分が多いので注意しようがないかもしれません。


フリーランスだからこそ注意が必要

しかし、独立・フリーランスといった形で活動し生活を送られている納税者の場合は、注意しなければ思わぬうちに「損」してしまうケースも起こり得ます。

それは「所得金額が900万円を超えたら控除額が下がる」という点。

先ほどお伝えした通り、900万円を超えた時点で38万円の控除額が26万円まで減少してしまいます。

妻は専業主婦ですから、妻の収入等は考慮に入れる必要がなく「自分の所得額」をよく意識しなければなりません。

そのため、特にフリーランスとして活動されている方は先ほどの点と照らし合わせて、以下のラインを意識しながら案件や報酬額を受注するといいでしょう。


900万円のライン

もし所得額が900万円を超えた場合、控除額は26万円。

900万円の場合は38万円の控除を受けられるということは、その差は「12万円」だということを考慮に入れておきましょう。

仮に所得額が900万円を超える場合、控除額の減少によって「本来収入が増えているはずなのに損をしてしまった」ということが起こらないようにするべきです。


950万円のライン

もし所得額が950万円を超えた場合は、控除額が16万円となります。

直前のラインである900万円超えの控除額、26万円と比較するとその差は「10万円」、更に前のラインと比較すると「22万円」です。

同様に、自分の所得額についてよく注意を払う必要が発生してきます。


1,000万円のライン

そして、所得額が1,000万円を超える場合は、配偶者控除の対象から外れることになります。

つまり、控除額は0円です。

フリーランスとして活動するなかで、仕事や案件の量が調整できる方は「本当に配偶者控除から外れてもいいのか」ということを冷静に考えてみてください。

特に深く考えずに案件をこなしているうちに、気がついたら「控除を受けられない状況になってしまって後悔…」というような事態に陥らないよう、注意深く自分の所得額と配偶者控除について理解しておく必要があります。


配偶者の給与収入が150万円を超える場合

ビジネスグラフとチャート


続いては、配偶者の給与収入が150万円を超える場合、つまり「38万円の控除を得られない場合」の控除額をチェックしてみましょう。

細かく定められているので、表形式で紹介いたします。

所得額 給与収入 控除額

〜90万円 〜155万円 36万円

〜95万円 〜160万円 31万円

〜100万円 〜167万円 26万円

〜105万円 〜175万円 21万円

〜110万円 〜183万円 16万円

〜115万円 〜190万円 11万円

〜120万円 〜197万円 6万円

〜123万円 〜201万円 3万円

配偶者の所得額(給与収入)によって、最大で33万円の控除額のひらきがあることが分かります。

そして、配偶者の所得額が123万円(給与収入201万円)を超えた場合は控除がなくなります

注意しておきましょう。


この改正は増税でもあり減税でもある

ビジネスマン 晴と雨 違い


今回紹介している配偶者控除の改正は、人によって「増税になる」パターンと「減税になる」パターン、両方があるといわれています。

一体なぜでしょうか。


増税になるパターン

疲れたビジネスマン


シンプルにいえば「納税者に所得制限がかかる人」は「増税になる」といえます。

先ほど考えた、合計所得が1,000万円(給与収入1,220万円)を超える場合は、改正された配偶者控除において対象外になります。

控除がなくなるため、仮に配偶者が条件を満たしていて38万円の控除を受けていた場合、その控除がなくなることになります。

仮に配偶者控除の対象に収まる範囲、1,000万円(給与収入1,220万円)以下だったとしても、900万円(給与収入1,120万円)を超えた時点で控除される額が減ってしまうことになります。

そのため、納税者に所得制限がかかる人、つまり「所得金額が900万円(給与収入1,120万円)を超える」場合は実質的な増税だといって何の問題もないでしょう。


減税になるパターン

エキサイトするビジネスウーマン


では逆に「減税」になるケースに注目してみましょう。

減税になるのは、従来の配偶者控除で38万円を下回る控除を受けていて、納税者の所得制限にかからないパターンです。

従来の配偶者控除では「103万円の壁」というラインを超えた時点で控除額が減少する配偶者特別控除となりました。

しかし、改正された配偶者控除では、85万円(給与収入150万円)まで38万円の控除を受けられるようになっています。

そのため、これまでは配偶者の収入が多かったために38万円の控除を受けられていなかったという世帯の中には、控除額が従来の配偶者控除よりも多くなるパターンが生じ得ます。

そのため、減税になるケースもあるといえるのです。


103万円の壁が改正の理由?

Q&A IT


そもそも、配偶者控除はなぜ改正されることになったのでしょうか。

1つのきっかけ・要因だといわれているのが「103万円の壁」という問題です。


働く意識

38万円という最高の控除額の対象となるために、配偶者が「働きたくても働けない」と感じたり、パートとして働いている方の中には「働く時間をうまく抑えなきゃいけない」という事態が発生していたのです。

そういったしがらみを無くすための1つのきっかけになるのかもしれないのが、配偶者控除および配偶者特別控除の改正でした。

事実、給与収入の「壁」は103万円から150万円に変化しており、より働きやすい環境が整備されはじめたという印象を受けた方も多いのでは無いでしょうか。

仮に150万円を超えてしまった場合でも控除が一切なくなるというわけではなく、控除される額が段階的に減少していくという形になるため、よりそのハードルは低くなったといえるでしょう。


決してマイナスな改正ではない

配偶者控除および配偶者特別控除の改正によって損をする人…つまり「増税」になる人もいます。

しかし、それと同時に減税となる人(世帯)もいるということはこの記事でも紹介してきました。

「税金」と聞くとどうしてもマイナスなイメージを抱きがちですが、配偶者控除・配偶者特別控除の改正は決してマイナスな改正ではありません。

配偶者の「働くこと」への意識が大きく変わるきっかけになるかもしれない改正だといえます。

日本における、働く意志はあるのに働けなかった方がより活発に仕事に時間を費やせるようになる可能性も考えられるかもしれません。


賢く損をしないフリーランスライフを送る

起業家のオフィスでデスクトップで詰め物をした封筒を開く


今回解説した、2018年に改正された「配偶者控除」と「配偶者特別控除」ですが、知っているのと知らないのとでは世帯への負担が明確に異なってきます。

特にフリーランスで生計を立てている方の場合、以前の配偶者控除であれば所得額を気にする必要はありませんでした。

しかし、改正後の配偶者控除においては「所得額は増えているはずなのに控除額が減っていて結果的にマイナスになった」といった事態が起こる可能性も考えられます。

知識が「あるか」・「ないか」で大きな差が生まれてしまうといえるでしょう。

賢く立ち回ることでフリーランスの収益や生活をより充実したものにできることがよく分かるケースです。

面倒くさがらずに必要な知識をしっかりと蓄え、後悔のないフリーランスライフを満喫していきましょう。